ブログ
【障害福祉】障害者差別解消法(4) 合理的配慮
2025.10.30
4回目となる今回は、2024年4月1日に施行された改正法により民間事業者に対しても法的義務となった障害者への合理的配慮の提供についてご説明します。
合理的配慮とは
障害者差別解消法は、7条2項で行政機関等に対して、8条2項で民間事業者に対して、それぞれ、障害者に対する合理的配慮の提供を義務付けています。ここで提供が義務付けられている合理的配慮について、定義等は特に設けられていませんが、内閣府が作成した、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(令和5年3月14日閣議決定。以下「基本方針」といいます。)」の「概要」においては、以下のとおり説明されています。
- 行政機関等や事業者が事務・事業を行うに際し、個々の場面で障害者から社会的障壁(筆者注:障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいいます(障害者基本法2条2項参照)。例えば、足が不自由な人が車いすで生活するときの段差や、障害に対する理解不足を要因とする偏見などがこれに当たります。)の除去を必要としている旨の意思の表明があった時に行われる必要かつ合理的な取組であり、実施に伴う負担が過重でないもの
※障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(令和5年3月14日閣議決定)
・概要
https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai/kihonhoushin/r05/pdf/gaiyo.pdf
・本文
https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai/kihonhoushin/r05/pdf/honbun.pdf
対象となる事業者の範囲
基本方針によれば、障害者差別解消法の対象となる事業者は、目的の営利・非営利、個人・法人の別を問わず、同種の行為を反復継続する意思をもって行う者です。そのため、個人事業者や対価を得ない無報酬の事業を行う者、非営利事業を行う社会福祉法人や特定非営利活動法人も対象となり、また対面やオンラインなどサービス等提供形態の別を問いません。
合理的配慮の内容(具体的事例)
合理的配慮は、障害の特性や社会的障壁の除去が求められる具体的場面や状況に応じて異なり、多様かつ個別性の高いものです。また、その内容は、後述する「環境の整備」に係る状況や、技術の進展、社会の変化等に応じて変わり得るものです。そのため、あらゆる事業者が必ず実施しなければならない対応をあらかじめすべて具体的に想定し、提示することは困難です。もっとも、基本方針に基づき各省庁がその所掌分野について作成した対応指針やデータベース等には、合理的配慮の具体例が掲載されていますので、対応の参考にすることができます。また、基本方針において、合理的配慮は、事業者の事務・事業の目的・内容・機能に照らし、必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること、障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものであること、事務・事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないことに留意する必要があると記載されており、これらの観点から、合理的配慮の提供義務違反に該当しないと考えられる事例の具体例についても掲載されています。以下はその具体例の一部です。なお、以下はあくまでも例示であり、あらゆる事業者が必ずしも実施しなければならないものではなく、以下の例以外であっても合理的配慮に該当するものはあります。また、合理的配慮の提供義務違反に該当するか否かについては、個別の事案ごとに判断することが必要です。
(合理的配慮の例)
-
- 車椅子利用者のために段差に携帯スロープを渡す、高い所に陳列された商品を取って渡すなどの物理的環境に係る対応を行うこと。
- 店内の単独移動や商品の場所の特定が困難な障害者に対し、店内移動と買物の支援を行うこと。
- 障害(身体障害、精神障害等)の特性に応じた筆談、読み上げ、手話、コミュニケーションボードの活用などによるコミュニケーション、振り仮名や写真、イラストなど分かりやすい表現を使って説明をするなどの意思疎通に係る対応を行うこと。
- 障害の特性に応じた休憩時間の調整や必要なデジタル機器の使用の許可などのルール・慣行の柔軟な変更を行うこと。
(合理的配慮の提供義務に反しないと考えられる例)
-
- 飲食店において、食事介助等を求められた場合に、当該飲食店が当該業務を事業の一環として行っていないことから、その提供を断ること。(必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られることの観点)
- 抽選販売を行っている限定商品について、抽選申込みの手続を行うことが困難であることを理由に、当該商品をあらかじめ別途確保しておくよう求められた場合に、当該対応を断ること。(障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものであることの観点)
- オンライン講座の配信のみを行っている事業者が、オンラインでの集団受講では内容の理解が難しいことを理由に対面での個別指導を求められた場合に、当該対応はその事業の目的・内容とは異なるものであり、対面での個別指導を可能とする人的体制・設備も有していないため、当該対応を断ること。(事務・事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないことの観点)
- 小売店において、混雑時に視覚障害者から店員に対し、店内を付き添って買物の補助を求められた場合に、混雑時のため付添いはできないが、店員が買物リストを書き留めて商品を準備することができる旨を提案すること。(過重な負担(人的・体制上の制約)の観点)
建設的対話・相互理解の重要性
基本方針においては、合理的配慮の提供にあたり、社会的障壁を除去するための必要かつ実現可能な対応案を障害者と事業者等が共に考えていくために、お互いの状況の理解に努め、様々な対応策を柔軟に検討していくことが重要であるとされています。なお、「建設的対話」とは、できる・できないという二元論で考えるのではなく、相互にできる範囲で対応可能な代替案を提示していく等により、社会的障壁を除去するために必要な対応について、障害者と事業者等が対話を重ね、共に解決策を検討していく双方のやりとりをいいます。
意思の表明とは
合理的配慮の提供義務は、障害者からの意思の表明があることが前提となっています。意思の表明の方法については法律上特に定めはありませんが、障害者の障害に応じて様々な方法が想定されます。また、基本方針によれば、障害の特性等により本人の意思の表明が困難な場合には、障害者を補佐する者が本人を補佐して行う意思の表明も含まれます。なお、基本方針においては、意思の表明の際には、障害者は、社会的障壁を解消するための方法等を相手に分かりやすく伝えることが望ましいとされています。
過重な負担とは
実施が過重な負担となる場合には合理的配慮の提供義務は免除されることになります。基本方針によれば、①事業への影響の程度、②実現可能性の程度、③費用・負担の程度、④事業規模、⑤財務状況の5つの要素等を考慮し、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要とされています。そして、事業者は、過重な負担に当たると判断した場合は、障害者に丁寧にその理由を説明し、理解を得るよう努めること、事業者と障害者の双方が、建設的対話を通じて相互理解を図り、代替措置の選択も含めた対応を柔軟に検討することが求められています。
環境の整備との関係
合理的な配慮が個々の場面で個々の障害者に行われるものであるのに対して、障害者差別解消法5条が努力義務として定めている「環境の整備」は不特定多数の障害者を主な対象として行われる事前的改善措置という違いがあります。両者は環境の整備の状況によって、個々の合理的配慮の提供の内容が異なることになるという関係にあります。環境の整備の詳細については、第5回のブログで紹介します。
ブログシリーズ「障害者差別解消法」
第1回:障害者差別解消法(1)障害者差別解消法の概要
第2回:障害者差別解消法(2)対象となる「障害」の種別①
第3回:障害者差別解消法(3)対象となる「障害」の種別②
第4回:障害者差別解消法(4)合理的配慮 ←今回はこちら
ブログシリーズ「障害福祉」一覧ページはこちら

出典:東京都福祉局(東京都障害者差別解消法ハンドブック~みんなで支え合い、つながる社会をめざして~(令和6年4月改訂版)」



