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【デジタルプラットフォームと法】第7回「デジタルプラットフォームとEC利用規約(定型約款)における留意点(主として違約金条項を念頭に)」
2026.03.23
はじめに
前回(第6回)のブログでは、AmazonサイトなどのEC(Electronic Commerce)プラットフォームに関するテーマを扱いました。今回はこれに関連して、ECプラットフォーム上における販売業者が、利用者(消費者を念頭)との取引(売買契約等)に際して同意を求める利用規約(定型約款)に、利用者に違約金等を課す条項があった場合に、当該違約金条項が当然に利用者との間の契約内容を構成するのかといった論点について、近時の裁判例(東京地判令5年8月24日判例時報2627号36頁)(以下「本件裁判例」といいます。)も踏まえて取り上げたいと思います。
販売業者の利用規約(定型約款)に係る基本的な法律関係
利用者が販売業者(ECプラットフォーム上の出品者等)が販売している商品又はサービスを購入する場合、当該販売業者が利用者との取引に際してオンライン上に表示する利用規約に同意を求めるケースが多いと考えられます。通常、このような利用規約については、2020年4月1日から施行されたいわゆる債権法改正後の民法(以下、単に「民法」と記載します。)における「定型約款」(民法第548条の2以降)に該当すると整理されております(筒井健夫=村松秀樹『一問一答 民法(債権関係)改正』(商事法務、2019年)246頁、以下「筒井=村松・一問一答」といいます。)。
この「定型約款」の意義に関しては、ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることが双方にとって合理的なものが「定型取引」と定義され、当該定型取引において、契約の内容とすることを目的として特定の者により準備された条項の総体(例えば、EC上の利用規約等)が「定型約款」(民法第548条の2第1項)と定義されています。
この定型約款という概念が導入された経緯や規定の詳細などは本ブログでは割愛させていただきますが、民法上の「定型約款」に該当すれば、定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示するなどの一定の要件を満たすことを条件に、定型約款に記載された個別の条項の内容について相手方が認識していなくても、当該条項について合意したものとみなされることになります(民法第548条の2第1項)。もっとも、このような擬制が適切でない場合も想定されるため、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、信義則(民法第1条第2項)に反して相手方の利益を一方的に害すると認められる条項については、合意しなかったものとみなすとされています(民法第548条の2第2項)。
それでは、このように例外的に合意内容にならず無効になるケースについて、以下の3.で【事例】を素材として検討していきたいと思います。
事例に基づく検討
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【事例】 Y(利用者)は、Xが営むインターネットショップ(以下「本件ショップ」といい。)で人形(以下「本件商品」という。)を1万円で購入(以下、当該取引を「本件売買契約」という。)した。その後、Yは、いわゆるオンラインのフリーマーケットにて本件商品を出品し、5万円で落札された。 XはYに対して本件違約金条項に基づき20万円等の支払いを求める請求をしたが、かかる請求は認められるか。 |
(1)上記事例の争点
上記事例における争点は、大きくは以下のとおりです。
①本件転売禁止特約は本件売買契約の内容に含まれるのか
②本件違約金条項が民法第548条の2第2項に該当し無効ではないか
(なお、上記【事例】の元となった本件裁判例においては、上記の論点の他、未成年者を理由とする取消権の可否についても論点となりましたが、当該論点については割愛します。)
(2)争点①(本件転売禁止特約は本件売買契約の内容に含まれるのか)について
本件裁判例においては、まず本件転売禁止特約が本件売買契約の内容に含まれるのかについて「本件ショップにおける売買は、インターネットを介して、原告が不特定多数の者に対し一定の商品を一定の対価で提供する取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものであるから、定型取引に該当する(民法第548条の2第1項)。そうすると、本件転売禁止特約は、定型取引の内容となることから、被告(筆者注:利用者)が仮に本件転売禁止特約を見落とすことがあったとしても、本件売買契約の内容となる」(本ブログにおける下線は執筆者によります。)と述べて、本件売買は「定型取引」(民法第548条の2第1項)に該当し、本件転売禁止特約は「定型約款」の内容になることを確認しました。
(3)争点②(本件違約金条項が民法第548条の2第2項に該当し無効ではないか)
上記のとおり、本件転売禁止特約が本件売買契約(定型約款)の内容になったとしても、本件違約金条項が、「相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第一条第二項規定する基本原則(筆者注:信義則)に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるもの」(民法第548条の2第2項、以下「不当条項」といいます。)に該当して無効なのではないかが本件裁判例の最大のポイントとなりました。
ア 不当条項規制について
どのような条項が不当条項に該当し無効になるのかについては、例えば、「相手方に対して過大な違約罰を定める条項、定型約款準備者の故意又は重過失による損害賠償責任を免責する旨の条項など、その条項の内容自体に強い不当性が認められるものや、売買契約において本来の目的となっていた商品に加えて想定外の別の商品の購入を義務付ける不当な抱合せ販売条項など、その条項の存在自体を相手方が想定し難く、その説明などもされていないために不当な不意打ち的要素があるものなどが想定される。」(筒井=村松・一問一答252頁)などと説明がされているところです。
そして、条文上、不当条項に該当するか否かの判断に際しては、①定型取引の態様、②定型取引の実情、③取引上の社会通念を考慮するものとされています。これら考慮事由に関する考え方は概要、以下のとおりです。
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考慮事由 |
概要 |
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①定型取引の態様 |
相手方である顧客(利用者)にとって客観的にみて予測し難い内容の条項が置かれ、かつ、その条項が相手方に重大な不利益を課すものであるときは、相手方においてその内容を知り得る措置を定型約款(利用規約等)を準備する者(販売業者)が講じておかない限り、そのような条項は不意打ち的なものとして信義則に反することとなる蓋然性が高い。 |
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②定型取引の実情 |
その取引がどのような社会的・経済的活動に関して行われるものか、その取引において条項が設けられた理由や背景、その取引においてその条項がどのように位置付けられるものか、例えば、その条項自体は相手方である顧客に負担を課すものであるが、他の条項の存在等によって取引全体ではバランスが取れたものとなっているのかなどが「定型取引の実情」として広く考慮される。なお、問題となっている取引の顧客の属性に関する事情も考慮される。 |
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③取引上の社会通念 |
定型取引の態様やその実情の他、広くその種の取引において一般的に共有されている常識(取引上の社会通念)に照らして判断することが必要になる。 |
(上記の表の作成に際しては、筒井=村松・一問一答253-254頁、村松秀樹=松尾博憲『定型約款の実務Q&A〔補訂版〕』(商事法務、2023年)(以下「村松=松尾・Q&A」といいます。)100-101頁を参考にています。)
イ 本事例の検討
本事例の元となった本件裁判例は、争点②について、まず本件転売禁止特約は、「本来自由な処分権の行使に制約を設けるものといえ、さらに、これに違反して転売した場合、本件違約金条項により相手方に違約金の支払義務を負わせるものであるから、本件違約金条項は、民法第548条の2第2項にいう「相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する」ものといえる。」と認定しました。
そして、本件違約金条項が不当条項に該当して無効かどうかの検討に際しては、「インターネットを介した取引形態においては、未成年者から高齢者まで、幅広い年代層で理解度も様々な者が関与することが容易に想定されるものである。そうであれば、取引の安全の観点から、契約締結までの間に、相手方に定型約款を利用した取引であることが個別具体的にウェブ画面上で認識可能な状態にしておくことが必要と解される。」と、多くの年代が関与する取引であることを理由に、定型約款取引である旨についてウェブ画面上分かりやすいように条項を記載すべきとした上で、本件違約金条項のように義務を加重する場合には、「どのような場合にどのような義務を加重するのかを、取引の当初から個別に表示するなど、その内容を容易に知り得る状況にすることが必要」であると「取引の当初から個別に表示」することを強調しました。
その上で、以下の事実から、本件違約金条項は、利用者に一方的な義務を負わせるだけでなく、合理的に予測することが困難な不意打ち的な内容になっているとして、不当条項(民法第548条の2第2項)に該当し、無効であると判断しました。
<本件裁判例において本件違約金条項を無効とした際に考慮された事実>
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①商品ページに違約金の記載がない ②表示のタイミングが遅い ③表示位置が埋もれている ④注意喚起がなされていない ⑤転売禁止=違約金とは通常想定できない ⑥違約金額が著しく高額 |
したがいまして、本件裁判例の考え方を前提といたしますと、【事例】におけるXのYに対する20万円の違約金の請求は認められない可能性が高いこととなります。
ウ 若干の補足(消費者が定型約款の内容を全て認識して契約が締結された場合)
なお、消費者が定型約款の内容(上記事例で言えば、本件違約金条項を含む内容)を全て認識していた場合にまで不当条項規制(民法第548条の2第2項)が適用されるかについて一応問題となります。この点につきましては、結論としては、かかる場合であっても、定型約款を契約内容とする旨の合意があるものとして民法第548条の2第1項の規定が適用され、さらに同条2項(不当条項規制)も適用されることになるものと解されます。もっとも、当該事実が何ら考慮されない訳ではなく、不当条項規制への具体的な当てはめにおいては、当事者が定型約款の個別の条項の内容を全て認識していたことは、信義則に反するか否かの判断に当たって考慮されることになると解されます(村松=松尾・Q&A 106頁)。このように、消費者が定型約款の存在や内容(特に不当条項と主張される条項)を認識していたとしても、なお不当条項規制により合意しなかったものとみなされる可能性が残る点は留意が必要となります。
その他の論点(消費者契約法第10条(不当条項規制)との関係)
以上で見てきた定型約款における不当条項規制(民法第548条の2第2項)については、消費者契約法第10条に定める不当条項規制との関係が若干問題となります。消費者契約法第10条の詳細な内容は割愛させていただきますが、いずれの条項も、契約の当事者一方にとって不当な内容の契約条項の効力を認めないとする点で共通していますが、以下の点で異なっています(村松=松尾・Q&A109頁)。
- 消費者契約法10条は、消費者と事業者との間の消費者契約の条項であって、消費者側の利益を害するものに適用対象を限定しているが、定型約款に関する規定にはそのような限定がない点
- 定型約款に関する規定は、顧客である相手方(利用者等)が約款の個別の条項の内容を認識しないまま取引が行われるという定型取引の特質が重視されているのに対し、消費者契約法第10条では、消費者と事業者との間に交渉力や情報等の格差があることを踏まえて判断される点
したがって、民法第548条の2第2項と消費者契約法第10条では、その判断において重視すべき考慮要素も異なり、導かれる結論に違いが生ずることもあり得る旨が指摘されているものの、実務上、どの程度差異を生じるかについては、実際のところ大きな差異はなく(平野裕之『新債権法の論点と解釈〔第2版〕(慶應義塾大学出版会、2021年)378頁)、定型約款に係る不当条項規制については、消費者契約法の適用を受けない事業者間取引で定型約款が用いられている場面に差が生じるとする指摘もあります(鎌田薫ほか『重要論点 実務 民法(債権関係改正)』(商事法務、2019年)41-42頁)。
なお、消費者契約法第10条との関係で、テーマパークを運営する事業者の利用規約において定められていたチケットの転売を禁止する条項については、同法10条に反するものではなく有効であるとする裁判例(大阪高判令和6年12月19日)がありますが、こちらは転売を禁止する条項は存在したものの、違約金等の定めはありませんでした。
終わりに(留意点など)
上記のとおり、ECプラットフォーム上における販売業者が準備する利用規約については、「定型約款」に該当する可能性が高い上、本件裁判例が指摘するように、未成年者から高齢者まで幅広い年代層で理解度も様々な者が関与する場面においては、特に利用者の義務を加重するような条項については、利用者にとって不意打ちにならないよう、十分に分かりやすく表示をする必要があります。今回は違約金条項を例に挙げましたが、違約金条項のみならず、例えば、売買契約に際して高額な手数料が発生するといった条項等も本件裁判例の射程が及び得ると考えられます。
この点について、従前、不当条項規制については、付随条項(契約の主要な目的、対価等の契約の中心部分以外に関する条項)が念頭に置かれていたものの、「最近ではまさに「定型取引」や、デジタルプラットフォームの利用規約のように、事業者の主たる債務や価格自体が約款で定められていることも少なくない。そうすると、消費者が契約を締結した目的の実現自体を妨げる中心条項や、当事者の金銭的負担を不明確にしている価格条項などが、不当ないし「不意打ち的」であるとして、同項(筆者注:民法第548条の2第2項)で排除されることはありうるだろう」(大澤彩『消費者法〔第2版〕』(2025年、商事法務)160頁)との指摘もある。販売業者としては利用規約をはじめ、契約内容としたい条件について、その内容のみならず、どのように利用者に表示するかも含めて慎重に検討する必要があります。
連載「デジタルプラットフォームと法」の過去の記事
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No. |
掲載時期 |
タイトル |
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第1回 |
2021年7月 |
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第2回 |
2021年8月 |
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第3回 |
2021年8月 |
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第4回 |
2021年10月 |
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第5回 |
2022年1月 |
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第6回 |
2025年9月 |
※いずれの記事も、その時点の情報に基づいて執筆されているため、最新の法令、判例等の情報が反映されていない場合がございます。
以上

