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【排出量取引制度(GX-ETS)(2026年4月施行の省令、実施指針を踏まえ)③】排出枠の割当て(各論②)グランドファザリングによる割当水準、勘案事項(過去の削減努力、リーケージリスク等)
2026.04.21
GX推進法が改正され、2026年度から、日本において排出量取引制度(GX-ETS)が本格的にスタートします。
本ブログでは、概要、対象となる事業者、登録確認機関、排出枠の割当て(総論)についてご説明いたします。
(なお、概要、対象事業者、登録確認機関、排出枠の割当て(総論)につきましては、【排出量取引制度(GX-ETS)①:https://www.tmi.gr.jp/eyes/blog/2026/18253.html】を、排出枠の割当て(各論①)排出枠の割当量の調整、ベンチマークによる割当水準につきましては、【排出量取引制度(GX-ETS)②:https://www.tmi.gr.jp/eyes/blog/2026/18254.html】を、割当ての方法、排出実績量の報告等、排出量の取引、償却、未償却相当負担金については、【排出量取引制度(GX-ETS)④:https://www.tmi.gr.jp/eyes/blog/2026/18256.html】を、それぞれご参照願います。)
3-8 グランドファザリングによる割当水準
3-8-1 グランドファザリングによる割当ての考え方
ベンチマークの適用対象とならなかった排出源については、グランドファザリングによる割当てが行われます。グランドファザリングにおける割当量の削減率については、ベンチマークによる削減水準との公平性にも配慮して定める必要があります。
ベンチマーク対象業種においては、製品当たりの排出原単位を指標とすることが困難である場合には、燃料転換の状況を評価する指標として燃料ベンチマークが採用されます(前述3-7-6参照)。グランドファザリング対象分野についても、燃料転換による削減ポテンシャルを見積もることで、目指すべき削減率を定めるべきところ、当該分野においては、すでに4割程度のエネルギーは排出係数の低い都市ガスに転換済みであり、残りのエネルギーについても、都市ガス相当までベンチマーク同様の時間軸で削減を進める場合、年率1.7%の削減が必要(グランドファザリング対象分野の平均的な排出係数は61.8t-CO2/TJであるため、上位水準の排出係数を都市ガスの排出係数(51.3t-CO2/TJ)とするには、1-51.3/61.8≒0.169(16.9%)の削減が必要。このため、今後10年間で上位水準まで改善するには、毎年1.7%の削減が必要)となります。このため、グランドファザリング対象分野におけるエネルギー起源二酸化炭素の削減率は年率1.7%となります(中間整理72頁、実施指針別表第2)。
3-8-2 プロセス由来CO2の削減率の考え方
生産に伴い不可避的に発生するプロセス由来CO2(原材料起源二酸化炭素)の排出の削減手段は、現時点では製品収率の改善等に限定されており、こうした点を踏まえて適切な削減率の設定が必要となります。収率の改善については、すでに相当程度の対策が進んでおり、ベンチマーク対象となる鉄鉱石の還元や石灰石・ドロマイトの熱分解工程では、上位50%と上位32.5%のプロセス由来排出の原単位の差は1%~2%程度となっています。そこで、グランドファザリング対象分野についても、生産効率の改善余地はベンチマーク対象業種と同程度とみなし、グランドファザリング削減率は年率0.3%(2030年度までの5年で1.5%の削減)となります(中間整理73頁、実施指針別表第2)。
3-9 その他の勘案事項1 過去の削減努力
グランドファザリング対象の排出源については、起点となる過去の年度から基準期間までにグランドファザリングの削減率以上に削減した量について、制度開始前の削減努力として認め、2026年以降5年間の割当量に反映されます(実施指針附則2条)。
3-9-1 削減努力を勘案する期間
日本の温室効果ガスの排出削減目標が2013年度を基準としていることを踏まえ、起点とする年度を2013年度とします(実施指針別表第2の備考の⑥(一))。但し、2012年度以降に初めて省エネ法定期報告を行った特定工場等・輸送手段については、新設の翌々年度を起点とします。そして、起点とする年度の排出量は、当該年度の前後を含む3か年度の平均値となります(実施指針別表第2の備考の⑥(二)、中間整理82頁)。
3-9-2 過去実績の参照方法
過去の排出量については、温対法に基づくSHK(算定、報告、公表)制度による排出実績(グランドファザリングによる割当ての対象となる特定事業者の基礎排出量)を参照します(実施指針別表第2の備考の⑥(一)(二)、中間整理84頁)。
3-9-3 過去の活動量変動の勘案
過去の削減努力と、生産縮小等の削減努力によらない削減分を切り分けることが困難であるところ、制度開始後の各年度においては、活動量が減少した場合、割当量を減じることとしている(前述3-5-3参照)ため、調整措置が必要となります。そこで、過去の起点年度からの削減量について、活動量の減少による寄与分を割り引くための係数を見積り、この係数を乗じて割当量が算定されます(中間整理85頁)。
製造業の設備稼働率は、2013年~2024年で年率1.0%低下する一方、グランドファザリング削減率(年率1.7%)を超えるペースで排出削減を達成した事業所の平均的な削減率は年率約5%と推計されます。このため、この係数は0.8とされます(中間整理86頁)。そこで、エネルギー起源排出量の割当量の設定に当たり、以下の算式で得られる値を加算することができます(実施指針別表第2の備考の④)。
早期排出削減量×0.8×(1-0.017×制度開始経過年度数)
早期排出削減量:起点年度平均エネルギー起源排出量×(1-0.017×早期排出削減年度数)-(届出を初めて行う年度の前3年度のエネルギー起源排出量の合計量÷3)(同備考の⑤)
起点年度平均エネルギー起源排出量:A/3×B/C(同備考の⑥)
A: ① 平成23年度から届出を初めて行う年度まで継続して省エネ法定期報告を行っている特定工場等又は輸送手段の場合 平成24年度~平成26年度のエネルギー起源排出量合計量
② 平成24年度以降に初めて省エネ法定期報告を行った特定工場等又は輸送手段であって、届出を初めて行う年度まで継続して省エネ法定期報告を行っているものの場合 特定工場等に指定された年度の翌年度~当該翌年度の翌々年度のエネルギー起源排出量合計量
B: 令和5年度~令和7年度の特定事業活動以外の事業活動に伴うエネルギー起源排出量の合計量
C: 令和5年度~令和7年度のエネルギー起源排出量の合計量
早期排出削減年度数:起点年度から届出を初めて行う年度の前々年度までの年度の数
起点年度: 平成25年度以降であって、最初に特定工場等となった年度の翌々年度(平成23年度時点において特定工場等に指定されていた工場等については平成25年度)
3-10 その他の勘案事項2 リーケージリスク
主たる事業がカーボンリーケージ業種(※)に該当する事業者で、収益に対する排出枠調達コスト(排出枠不足分×平均市場価格)の比率が一定水準を超える場合、不足分のうちの一定割合を翌年度の割当量に追加します(中間整理89頁)。
(※)カーボンリーケージとは、各国のカーボンプライシングにより炭素排出コストに差異が生じる場合に、炭素集約度の高い(carbon-intensive)事業活動を行う企業が、国際競争力維持のため、炭素排出コストの低い国に移転することで、当該国での温室効果ガス排出量が増加することをいいます(World Bank “State and Trends of Carbon Pricing” (2015) p.52)。
3-10-1 カーボンリーケージ業種の判定
貿易シェアを考慮し、閾値は0.1とします。主たる事業が、実施指針6条1項各号に掲げる事業分野のいずれかに該当するものが対象となります。
貿易シェア=(輸入額+輸出額)/国内生産額
3-10-2 追加で受けることができる排出枠の量
(1) (a)(割当年度の前年度の排出枠調達コスト(※1)/当該前年度の営業利益)>0.04(注)で、かつ、(b)当該前年度の排出枠の不足量(※2)>0の場合:
当該前年度の排出枠の不足量×0.5-(当該前年度の営業利益×0.02)/当該前年度の年間平均取引価格(※3)(実施指針6条2項1号)
※1: 排出枠調達コスト:排出枠の不足量×年間平均取引価格
※2: 排出枠の不足量:保有義務量(後述5-4、5-5)-排出目標量
※3: 年間平均取引価格:排出枠取引市場における排出枠の取引の価格の平均値(一度も排出枠取引市場で取引がされなかった場合は、当該前年度の参考上限取引価格の額)
(注)GX-ETS制度を導入によるコスト増によって直ちにリーケージが生じるものではないと考えられますが、資金ショートによる生産停止等の急激な変化が生じれば、国内の生産能力でこれを直ちに補うことは困難となるおそれがあります。このような資金ショートによるリスクに対応する観点から、排出枠調達コスト/収益の閾値については、短期の支払能力に着目して検討する必要があります(中間整理91頁)。
短期の支払能力に直結する国内製造事業者の預貯金等の当座資産の積上額は、直近20年間(コロナ、リーマン除く)平均で営業利益の8%程度であり、他方、直近10年間で、国内製造事業者の現預金の増加率は流動負債の増加率の約2倍です。短期的な支払能力の安全性は、一般に当座比率(現預金等の当座資産÷流動負債)によって評価されるところ、毎年度の現預金の増加額のうち、半分程度を制度対応コストとして支払ったとしても、平均的企業の支払能力に直ちに影響を与えないと考えられます。このため、リーケージリスクの緩和措置は、排出枠調達コスト/営業利益が4%(営業利益に対する現預金等の増加額の半分)を上回った場合に適用されます(中間整理91~93頁)。
(2) (a)割当年度の前年度の営業利益<0で、かつ、(b)当該前年度の排出枠の不足量>0の場合:
当該前年度の排出枠の不足量×0.5(実施指針6条2項2号)
3-11 その他の勘案事項3 研究開発投資状況
実施指針7条1項で定めるGX関連の技術分野における研究開発費用(自己負担分)に応じて、排出実績から割当量を除いた不足分のうち、一定の範囲を追加割当てが行われます。
3-11-1 各社が保有するGX関連技術の特定
公表情報等に基づいて企業が保有するGX関連技術を特定するのが望ましく、研究開発に関連する公表情報として特許情報等が活用されます。
3-11-2 関連する研究開発費の確認
GX関連技術に係る特許に関連する研究開発プロジェクトを特定した上で、当該研究開発プロジェクトに係る費用を研究開発費とします。企業は、研究開発費について第三者の確認(実施指針7条2項)を受けた上で、特許情報と研究開発プロジェクトの紐づけを証明する資料と第三者による確認書を国に提出します(中間整理100頁)。
なお、より幅広い取組を認める観点から、GX分野の国家プロジェクトの研究開発費のうち、自己負担分(具体的にはグリーンイノベーション基金を通じた研究開発プロジェクトにおける自己負担額)については、特許情報の確認を要件とせず、割当ての算定根拠となる対象経費に含まれます(中間整理102頁)。
3-11-3 追加割当量の算定方法
追加割当てされる排出枠の量は、割当年度の前年度の排出枠の不足量>0で、かつ、(1)特許庁が公表するGX技術区分表に該当する技術の研究開発、又は(2)GX基金補助金による研究開発を行う場合(実施指針7条1項)、次の(a)及び(b)のうち、いずれか小さい量です(同条2項)。
(a) (割当年度の前年度における上記(1)(2)の研究開発費(国から交付を受けた補助金等の額を除く)-その行う主たる事業分野における平均的な研究開発費(※))/当該前年度の年間平均取引価格
(b) 割当年度の前年度の排出枠の不足量×0.1
(※) 当該前年度における当該事業者の売上高×γで、γは、以下のとおり。
①製造業(石油製品・石炭製品製造業を除く):0.005
②石油製品・石炭製品製造業、電気業、ガス業及び熱供給業:0.001
③運輸業:0.0002
④上記以外の事業分野:0.0004
以上
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